埼玉県の北西部に位置する秩父の山間に建つ秩父蒸留所は、羽生蒸溜所(旧東亜酒造)創始者の孫である肥土伊知郎(アクト・イチロー)が創業したベンチャーウイスキー社の蒸留所です。
秩父の風土に根ざしたシングルモルトウイスキーづくりを行う秩父蒸留所は、2008年2月に稼働を始めたばかりの新進気鋭の蒸留所ですが、今、最も世界で注目されている日本の蒸留所といっても過言ではありません。
秩父蒸留所の創業者・肥土伊知郎は、日本酒メーカー東亜酒造の3代目です。しかし、肥土伊知郎の父の代で、東亜酒造の酒造部門自体が経営危機を向かえます。
当時の蒸留所であった羽生蒸留所での蒸留も2000年が最後となり、2004年には蒸留所のオーナーも交代、東亜酒造も醸造メーカーに買収されてしまいます。
新しいオーナーはウイスキーに興味がなく、20年以上熟成し、先代が手塩にかけて残した原酒を含む約400樽のモルト原酒が廃業される危機に面していたところを、3代目の肥土伊知郎が引き取り、2004年にベンチャーウイスキー社を立ち上げたという経緯を経ています。
秩父蒸留所は、1棟というマイクロディスティラリー(小規模蒸留所)ですが、その建物一つの中で仕込みから蒸溜までを行い、少量生産ながらも、ジャパニーズウイスキーであることに誇った様々なラインナップのボトルをリリースしています。特に肥土伊知郎の名を冠したイチローズモルトが主力商品となっています。
また、秩父蒸留所では、伽羅や白檀のような芳香をもたらす日本ならではのミズナラ樽での発酵・熟成を積極的行なっています。ミズナラは木から仕入れ、樽をつくる工程から携わるといった徹底ぶりです。そして、樽の個性を見抜き、樽の中で熟成するウイスキーの芳香性をコントロールするカスクマネージメント技術で定評を得ています。
秩父蒸留所では、原料や製法にも独自のこだわりを持っています。秩父蒸留所の仕込み水には、天然のミネラルが豊富な大血川渓谷水系の軟水を使用、そして原料の大麦は地元埼玉県産、ポットスチルはスコットランド・フォーサイス社製、小ロットながらもフロアモルティングを行うなど、スコットランドの伝統的製法に習ったウイスキー造りをベースとした、秩父の風土が生み出す独特の個性あるモルトウイスキーの生産を行っています。
フロアモルティング:大麦を床に広げ、発芽させること。発芽が均一に進行するように職人の手により撹拌させる。重労働のため、現在ではフロアモルティング を行うところは、スコットランドでも数える程しかない。