上品な甘みの稀少価値のあるワインとして「ワインの帝王・帝王のワイン」とも呼ばれる貴腐ワイン。貴腐ワインは貴腐菌(ボトリティス・シネレア)が付いた完熟したブドウを原料としています。
ボトリティス・シネレアとは、カビの一種で、熟したブドウの果実に繁殖すると、酒石酸を養分にして、果皮のろう質を溶かしてしまいます。
そのため、果粒中の水分が蒸発し、糖分が濃縮されますが、これが「貴腐」と呼ばれる状態です。
貴腐菌を繁殖させ、水分を飛ばして糖度を高めたブドウを使用して造ったワインを「貴腐ワイン」と呼びます。
貴腐ワインは、黄金色で甘みが強いのが特徴です。貴腐菌がうまく繁殖するには、気候条件が限られており、ブドウの表面に他の菌が繁殖しないこと、ブドウの成熟時の温度が20℃前後、湿度が70~80%の時など、特殊な自然条件が揃わないと、貴腐ワインは生産することができません。
また、ハンガリーのトカイやフランスのソーテルヌ、ドイツなど産地も限られていましたが、近年ではオーストリア、アメリカ、オーストラリアやニュージーランドなどでも貴腐ワインが造られています。
貴腐菌は、自然発生するものなので、環境や天候に左右されるところが大きく、管理が非常に困難で、貴腐ワインは造れる年と造れない年があります。
9~11月の初旬に湿度が80%以上という気候が条件のひとつですが、その時期に大雨や悪天候が続くと、ブドウが全滅してしまい、貴腐ワインが全くつくれないということもあり、収穫量が少ないため、価格が高くなる傾向にあります。
世界最高といわれる貴腐ワイン「シャトー・ディケム(フランス)」は、極めて生産量が少なく、かつ高価で、1本のブドウの木から、ボトル1本分しか造ることが出来ないといわれる究極の貴腐ワインです。
限られた自然条件の中で造られる貴腐ワインは、極甘口で、濃厚で豊潤な香りと豊かなコクを持っています。世界3大貴腐ワインと呼ばれるのは、フランスのソーテルヌ、ドイツの、トロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイです。
ソーテルヌ…ソーテルヌとその北に続く5つの村で生産されるソーテルヌ・ワインは、セミョン種とソーヴィニョン・ブラン種のブドウで造られ、蜂蜜のような香味を持ち、デザートワインとして味わわれています。
トロッケンベーレンアウスレーゼ…輝くような黄金色で、フルーティで濃厚な香りと、とろりとした甘さとコクが特徴です。
トカイ…主にフルミントという品種から造られ、フランスのルイ14世から「王のワイン」と称賛されたことでも有名です。美しい黄金色で、濃密な甘みと豊かでマイルドな香りが特徴です。
日本で最初の貴腐ワインは、1975年のサントリー山梨ワイナリーで造られました。現在も、登美の丘ワイナリーとして、登美ノーブルドールという貴腐ワインが生産されています。
他にも日本では優れた国産貴腐ワインがあり、長野県林農園の五一貴腐、北海道ワインの悠遠・貴腐葡萄37ケルナー、広島三次ワイナリーのTOMOEセミヨン貴腐などが例としてあげられます。